■タイ伝統医学における「4大タート理論」
タイ伝統医学の理論では、「全宇宙が土、水、風、火の4つの元素で成り立っている」という概念に基づいています。これを4大タート理論と言います。「タート」とは、タイ語で元素のことです。この考え方は、古代インド医学のアーユルヴェーダにも共通する理論です。アーユルヴェーダの歴史は5000年と言われていますが、アーユルヴェーダ(Ayurveda)は、ホリスティック医学を代表するものですが、アーユルヴェーダ(Ayurveda)は、サンスクリッド語で「生命の科学」(サイエンスオブライフ)の意味で、紀元前2500年頃からインドで広まった世界最古の伝承医学です。アーユルヴェーダは、中国伝統の漢方にも通じるところがある一方、世界保健機構(WHO)が正式に奨励している東洋医学のひとつで、人間が心身ともに健康で幸せに生きていくことを教える学問であり、病気をしないで健康で、楽しく天寿を全うすることを目的とした包括的な医療体系です。タイ伝統医学は、紀元前500年ごろのブッダの時代にルーツを持つと言われていますので、タイ伝統医学は、これらの影響を受けていると言って差し支えありません。
これらの伝統医学では、「病気にならない体、幸せを感じる心、すべての人が健康に美しく輝くために自然や宇宙と調和して生きることが大切」というのが健康のための基本的な通説です。その基本となっているのは、「地球上のすべての生命は宇宙と同調していて、人間の心も体も宇宙と一体であるとし、小宇宙である人間が宇宙との密接な関係によって健康を保つことが家族や地球、宇宙にとって大切である」ということです。地上にあるすべての生態系の基礎となっているのが空、風、火、水、土の5大要素であり、これらは常に相互に影響しあい変化しているとされています。人間の体内でこの生命エネルギーのバランスが崩れると、病気の大きな基ができる、と解いています。これらの元素のバランスが崩れると、地球規模では天変地異が起きます。人間では病気になるという考え方です。人間の身体も小さな宇宙であるとするなら、 人間の身体も同じように元素の影響を強く受けているという基本方針には変わりがありません。
ただし、アーユルヴェーダが「空、風、火、水、土」の5大元素の考え方であるのに対し、タイ伝統医学は「土、水、風、火」の4大元素の考え方です。一つ足りないものは「空」です。アーユルヴェーダでは、「五大元素」のことを、正式には「パンチャマハブータ(Panca Mahabhuta)」と言いますが、それぞれが指しているものは以下のようになります。
◎空(アーカーシャ)
=原子力エネルギー
=空間のこと
=性質(軽い、柔らかい、クリア、無限、活動的、拡大)
◎風(ヴァーユ)
=電気的エネルギー
=風や流れのこと
=性質(軽い、粗い、クリア、ドライ、冷たい、粗い、行動)
◎火(アグニ)
=放射エネルギー
=熱や火のこと
=性質(軽い、粗い、シャープ、ドライ、熱い、繊細)
◎水(アパス)
=科学的エネルギー
=水分のこと
=性質(重い、柔らかい、ぬるぬる、オイリー、鈍い)
◎地(プルッティヴィ)
=科学的エネルギー
=かたまりのこと
=性質(重い、固い、鈍い、濃い、鈍い)
タイの4大元素「タート」で比較すると以下のようになります。4つの元素を人間の身体に当てはめると、 土は骨や筋肉、水は血液やリンパ液、風は生理作用、 火は新陳代謝や消化を表しています。
◎空(アーカシャ)なし
◎風(ヴァーユ)
=生理作用
◎火(アグニ)
=新陳代謝や消化
◎水(アパス)
=血液やリンパ液
◎土(プルッティヴィ)
=骨や筋肉
なんとなく、考え方が共通しているのをご理解いただけたでしょうか?アーユルヴェーダでは「地」と表現していますが、タイ医学では「土」となっています。これはほぼ同じものと考えられます。では、何故タイ伝統医学では「空」が存在しないのでしょう?不思議に思って調べてみましたが、あるアーユルヴェーダの本に、このようなことが記載されていました。
「宇宙の始まりは意識の具体化されていない状態で、そこからオームという微妙な波動が発生し、その波動から「空」の元素が現れ、それが動いて「風」を生じます。風の動きは摩擦を生じ、やがて熱が発生し結合して「火」の元素が現れます。火の熱により空の要素が溶けて液体となり「水」が現れ、さらに溶けて「地」の元素が作られました。」空が他の4つに変化し、5元素が生まれたとアーユルヴェーダでは考えていますので、「空」はすべての大元ということになります。当時の人がわかりやすいように省いただけなのかも知れません。
タイの4大元素「タート」を人間に当てはめて、そのバランスが崩れた時、身体に不調として現れます。人は火、水、土、風のバランスを保つことにより健康に、良好な日々を過ごせると考えています。そして、身体の中の各細胞や各器官、血液等、身体すべての役割をベースにして「火、水、土、風」に分けて説明することができます。例えば、エネルギーを体全体隅々まで運んでいるのが 風の役割。生命エネルギー「プラーナ」は「風」に相当しますし、体内にある風の通り道「セン」もまた「風」の役割を担っていると言えます。ですから、タイ古式マッサージでは、エネルギーライン「セン」に沿ってアプローチを行っているわけです。この行為は、溜まった風を正常の位置に戻し、余計な風を外部に排出して風の通りを良くするという意味を持っています。全身にエネルギーを循環させ、調整しているわけです。ちなみに、そけい部付近を圧迫して、脈打つのを感じながら離すテクニックがありますが、「パート プラテート ロム」とうテクニックです。これは「風門を開く Open The Window Gate」という意味です。この場合の「風」とはエネルギーであるプラーナを指していることがわかりますね。 |