■アロマセラピーの活用
アロマセラピーとは、「植物から抽出した香り成分である精油(エッセンシャルオイル)を使って、心身のトラブルを穏やかに回復し、健康や美容に役立てていく自然療法」と定義されています。植物がもっている香りを、心身の癒やしに役立てようという考え方は、古代エジプトの壁画に香油の壺や香炉が描かれるように、数千年前からありました。植物(香草、薬草)の花、葉、茎、根、樹皮などから水蒸気蒸留で抽出した精油を用いて健康に役立てるという考え方は現代において一般的なものです。アロマセラピーは芳香療法として行う場合と、マッサージトリートメントとして施術を行う場合もアロマセラピーと言います。
香りを感じる「臭覚」は人間が備える感覚機能の一つです。感覚には他に、視覚、聴覚、触角、味覚がありますが、この五つを総称して「五感」といいます。臭覚は鼻を通じて感じる感覚ですが、実はこの臭覚の仕組みや特性については、他の感覚に比べて研究が遅れていた分野dした。動物が匂いを認識し、記憶するメカニズムを解明した2人の米国科学者に対して、ノーベル生理医学賞が与えられたのは2004年度のことです。この研究の内容は「臭覚受容体遺伝子と臭覚システムの発見」であり、「最も謎に包まれた人間の感覚」を解明した事が高く評価されたものでした。香りの物質が鼻に入り、脳に伝わって感知、認識される仕組みが、つい最近になってようやく明らかにされたわけです。
臭覚は人間の五感のうちでも最も原始的、本能的な感覚で、人間の生存にストレートに結びついている大切な感覚です。空気中に漂う香りの物質は、まず鼻腔内にある嗅上皮の粘膜にキャッチされ、嗅細胞に受容されて刺激を与えます。ここで香りの物質という「化学的な信号」は「電気的な信号」に変換され、嗅神経を経て、脳の大脳辺縁系に達します。人間の脳は、脳幹、小脳、大脳辺縁系、大脳新皮質と大きく四つの部位からなっていますが、このうち大脳新皮質は人間の進化の過程で新しく発達した「新しい皮質」です。思考や理性などを司っている「人間らしく考える脳」といえよう。一方で、人間が進化する前の性質(動物として生きのびていくために必要な性質)である食欲、性欲といった本能的な行動、あるいは喜びや悲しみなどの情動、記憶などを支配しているのが「古い皮質」すなわち大脳辺縁系です。これは味覚や触覚についても同様でなのですが臭覚の情報だけは、嗅神経から直接、大脳辺縁系へと伝達されるのです。つまり大脳新皮質へ入って思考や理性というフィルターを通さず、直接、人間の記憶や情動を支配している大脳辺縁系へ到達するわけです。これが意味することは実はとても大きいのです。野生の動物は、生命に維持に大きく関わる情報を察知するのに、真っ先に臭覚が働きます。例えば生死に関わる危険が迫っている時には、目による視覚、耳による聴覚よりも早く、鼻の臭覚がそれを察知します。敵が出現した時や、逆に食料となる獲物が現れた時には、いち早くニオイを嗅ぎつけることで、それに対処する行動をとるわけです。臭覚が、原始的、本能的な部位である大脳辺縁系と直接結びついているのは、こうした理由があるからなのです。サロンにおいて、自宅において、アロマセラピーの芳香をうまく活用することは、無意識化で潜在意識に影響を与えます。脳に直接作用して気分を変え、ストレスを軽減させることで、健康状態を保つことができたり、他人への印象を左右させたりします。リラクゼーション業界においても、アロマセラピーの利用はもっともっとポピュラーなものになるでしょう。
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